出会いは自然で、別れは突然だった。
いとことして出会って、幼なじみとして過ごして、そして──
雪の積もったあの日、あなたはこの街が嫌いになった。


駅に、雪が降る。


だから、私があなたに会うのに七年の時間が必要だった。
祐一には、忘れたいことがあって、忘れないと辛いことがあって、だから一緒にこの街も嫌いになった。
仕方ないと判ってる。
私が悲しいのと同じだけ、祐一も悲しかったから。


この街に、雪が降る。


だから、今更思い出して欲しいと私は言えるだろうか。
私じゃない女の子のために、捨て去ったこの街の思い出を。


津々と、雪はつり積もる。


もし、と思う。
もし、私が忘れられたら、と。
祐一のことを忘れて、何もかも忘れて、もう一度出会うことが出来たなら、と。


私の好きなこの街に、白い精霊が舞い降りる。


「……無理だよ」
弱々しく呟く。
この街を忘れて、祐一との思い出を忘れて、全て記憶から消え去って生きるなんて
「……出来ないよ」
再び呟く。


途切れることなく、雪は降り続ける。


あなたは、ずっと、待ち合わせの場所で座っていた。
七年前と変わらない場所で。
七年前と変わっていて欲しかった場所で。
七年前と変わって欲しくない場所で。
初めてあったときから変わらない仕草で。
あなたが忘れてしまった空白の時と変わらない表情で。

ああだから。
もし、と思う。
何もかも、もう一度やり直すことが出来たなら。
あなたは、私のことを好きになってくれるのでしょうか。
多分──
「きっと無理だね」
呟く言葉は確信。


雪は降り続ける。


七年前の出来事を、唯一知る人間として、私は、あの人になんと言えばよいのでしょうか。
私を、好きになって欲しいと伝えるのは、私のわがままなのでしょうか。


全てを白く埋め尽くそうと、雪は降り続ける。


足を踏み出せば気付く場所にいる。
目を上げれば判る距離にいる。

でもそれには、七年の歳月が横たわる。



降り積もる雪に、抵抗することもせずに埋もれるあなた。
多分、私もまた埋もれるように雪が積もっているのだろう。

気付かれないように言ってみる。

「私の名前、まだ憶えてる?」

忘れてくれてもいい。忘れていて欲しい。でも、憶えていて欲しい。
きっと、あなたにとっては大切な名前じゃないけれど。

顔を上げる。
あの人はそこにいる。
変わらぬ仕草で。
変わらぬ表情で。

だから、近づいた。

勇気を出して。
消え去りそうな怖れを降りのけて。

神様。
もしいるのならばお願いです。
どうか、七年前の時間を──もう一度同じ時間を与えてください。
この街に帰ってきてくれた、私の好きな人のために。


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